ホームシアターの防音対策について。そもそもホームシアターの定義とは?
近年では、「ホームシアター」という言葉をよく耳にするようになっていて、新築戸建て住宅を建てる際には、ホームシアターを用意したいと考えるお客様が増えていると言われています。さらに、マンションなどの集合住宅に住む方の中にも、部屋をホームシアターにリフォームしたいと我々のような防音工事業者に相談してくる方が増えています。
そこで当コラムでは、そもそも「ホームシアター」とはどのような能力を持った部屋のことを指しているのか、実際に自宅にホームシアターを設置したいと考えた時、皆さんが検討すべき防音対策の注意点などについて解説します。
ホームシアターとは?
それではまず、そもそもホームシアターとはどういったものなのかについて簡単に解説します。最近では、ホームシアターという言葉をよく耳にするようになっていると思いますが、それでは、このホームシアターには何か明確な定義のようなものがあるのでしょうか?
実は、この答えは「No」でありホームシアターは「○○が備え付けられたもの」と言った明確な定義はないのです。
一般の方がイメージするホームシアターは、「DVD+5.1chサラウンド再生環境+大画面再生」などと言った設備が整ったものだと思うのですが、実はリビングに大きなスクリーンを取り付けるだけ、20インチのモノラルテレビでレンタルビデオを楽しむだけと言ったものでも、ホームシアターと言えなくもないのです。もちろん、音声はサラウンド再生で臨場感があった方が良いですし、映像の迫力を楽しみたいのであれば、大画面での再生が望ましいです。
したがって、近年、「自宅にホームシアターが欲しい」と考えている方の多くは、「映画館のような大迫力の映像・音響を自宅でも気軽に楽しみたい!」と言った要望を持っていて、要は映画館のようなシステムをそのまま自宅に作るというのがホームシアターの定義と考えられていると思っていただければ、あながち間違いではないと思います。
自宅にホームシアターを用意しておけば、映画だけに限らず、スポーツ観戦やテレビゲームなど、映像が関わるものは何でも、臨場感たっぷりに楽しめるはずです。
ホームシアターのメリット
それでは、自宅にホームシアターが欲しいと考えている方は、ホームシアターのどのような点に魅力を感じているのでしょうか?ここで、自宅にホームシアターを用意する場合のメリットについて解説します。
- 好きな時間に好きな映画を繰り返し何度も見ることが可能
- 自分にとってベストポジション(画面の中心)で映画を楽しむことが可能
- 映画館と似たような音声方式で、もしかすると映画館よりも良い条件で音声を楽しめる
- 大画面を一人あるいは家族(仲間)で独占できる。自分の都合で一時停止も可能
- タバコや飲み食いしながらの映画の視聴も可能
- 映画館にわざわざ出向く必要がないので時間を有効に使える
- スポーツやゲームなど映画以外のものでも大画面で楽しむことができる
このように、自宅にホームシアターを用意しておけば、自分の時間に合わせて大画面と良質な音声で映像や音楽、ゲームなどを楽しむことができるようになります。もちろん、ホームシアターを作るためには、それなりのコストがかかってしまいますが、頻繁に映画館に足を運ぶといった方であれば、一生モノのホームシアターになれば、金銭的コストと時間的コストを考えるとお得になるかもしれません。
ホームシアターの防音対策について
大迫力の音響と映像で映画作品を楽しんだり、アーティストのライブ映像を臨場感たっぷりに味わったりできるホームシアターですが、注意しなければならないのは音の問題です。ホームシアターは、やはり大音量で楽しみたいと考えるものですが、何の対策もない状態で大きな音を発生させると、他の部屋はもちろん、近隣への音漏れで大きなトラブルに発展してしまう可能性があります。実際に、近年では、本格的なホームシアターシステムを入れるのではなく、リビングにスクリーンだけ設置して、大音量・大画面で映像を楽しむという方が増えています。しかし、防音のことに頭が回っていないことから、ご近所さんから苦情を言われてしまい、せっかく購入したスクリーンやプロジェクターが使えなくなる…なんてケースも多くなっているようです。
そこで本項では、ホームシアターを設置するにあたって、皆さんが検討しておきたい防音対策について解説します。
ホームシアターの音量について
それではまず、ホームシアターで生じる音の大きさから簡単にご紹介します。もちろん、ホームシアターで何を楽しむのか、どの程度の音量にするのかは人それぞれですし、一概に「〇dBの音が出る」とは言えないです。
ただ、一般的には、部屋でオーディオを楽しむときの音量が約80dBで、ホームシアターになると、最大で100dBを超える程度の音が出ると言われています。ちなみに、通常の会話や、テレビの音量が50~60dB程度と言われていて、100dBは電車が通る時のガード下レベルの音量です。つまり、他人にとっては騒音以外の何物でもないと考えなければならないでしょう。
人が家の中などで過ごしている時、音を気にせずに過ごせるレベルの音量は40dB前後と言われています。したがって、ホームシアターを自宅で楽しみたいと考える方は、何らかの防音対策により、40dB以下にまで音漏れを小さくする必要があります。
ドアの防音対策
大迫力の音響と映像で映画や音楽を楽しみたいと考えている場合、一緒に住む他のご家族に対する防音対策が必要です。その他の防音室工事でもよくあるのですが、防音室の中で発生する音が「家の外に漏れる」のを防ぐための防音対策を重視するあまり、家の中への音漏れ対策が甘くなる場合があります。家族全員がホームシアターを楽しんでいる場合は良いのでしょうが、他の部屋では子供が勉強している…と言った状況になると、ホームシアターからの音漏れが学習の邪魔をする恐れがあります。したがって、きちんと屋内に対する音漏れ対策も行うようにしましょう。
屋内への音漏れについては、ドアが弱点になっているケースが多いです。「ドアをきちんと閉めていれば音漏れは防げるのでは?」と考えるかもしれませんが、実は一般的な室内ドアは、きちんと閉めていても換気のために隙間が生じるような構造になっています。ドアを閉めた状態でよく見ればわかるのですが、ドアの下部には、1cmほどの隙間が生じているはずです。音は、空気が振動することで伝わっていくものですので、わずかな隙間も音漏れの原因となってしまいます。つまり、通常の室内ドアであれば、きちんと閉めていても防音効果は期待できないと考えてください。また、ドアは、壁と比較すると厚みが無いので、そもそも防音性はそこまで高くありません。
ホームシアターを設置して、屋内の他の家族に音で迷惑をかけないようにするためには、通常の室内ドアを、防音ドアに交換すると良いでしょう。防音ドアは、ドア枠にパッキンが取り付けられていて、きちんと閉めればパッキンを潰して隙間を無くすような構造になっています。また、高い遮音効果を持つ素材でドアが作られているので、ドア部分からの音漏れを大幅に少なくしてくれます。
窓の防音対策
次は窓の防音対策です。家の外への音漏れで最も懸念される場所は、窓です。窓に関しても、多くの方はきちんと閉めていれば、音漏れを防いでくれると考えていることでしょう。しかし、窓は、外壁などと比較すると、かなり薄いガラス素材で出来ているので、特殊な防音ガラスを導入している場合以外は、ガラスを音が通過します。さらに、窓もきちんと閉めていてもある程度の隙間が生じるような構造になっています。窓は、取り付けられる目的を考えると、「隙間を無くす」ことよりも、スムーズに開閉できることが重視されます。そのため、レール部分などには小さな隙間が生じているのです。ホームシアターなど、大きな音が生じる場合には、近隣への配慮として、きちんと防音対策を施しておくのがおすすめです。
窓の防音対策について、最も手軽で高い効果を見込めるのが、二重サッシ(インナーサッシ)です。窓の構造にもよりますが、一般的な窓であれば、簡単に後付け出来るので、施工にかかるコストもそこまで高くなりません。二重窓は、断熱目的で採用されることもあるのですが、防音面でも非常に高い効果を期待できます。さらに、窓の内側に防音カーテンを設置すれば、二重の防音対策になりますので、窓部分からの音漏れを大幅に削減することができるようになるでしょう。
なお、新築時にホームシアターを設置するという場合、窓に防音ガラスを採用する、小さな窓にする、窓を設けないといった対策で、防音性を高めることができます。
壁や床の防音対策
100dBもの大きな音が生じるホームシアターは、壁や床の防音対策も重要です。新築時にホームシアターを設置する場合、壁の内側や天井の裏、床下などに吸音材や遮音材を入れることで、音漏れの低減を図ることができるでしょう。また、注意しておきたいのは、ホームシアターは、重低音もしっかりと表現することができるため、振動が広がってしまう恐れがあります。そのため、振動で近隣の人に迷惑をかけないため、それぞれの構造を二重にするといった対策が必要です。
大幅な防音対策を行うコスト負担が厳しい…という場合は、防音マットなどで対策することも可能ですが、この場合は、ホームシアター内で生じさせることができる「音の大きさ」に限界が生じると考えてください。
「音」を楽しむ為の音響造り
ホームシアター用の防音対策は、単に音漏れが防げれば良いという問題ではありません。ホームシアターは、研ぎ澄まされた音環境の中で「映画や音楽を思う存分楽しみたい」と言う目的で実現する人がほとんどです。そのため、いくら音漏れしなくなっても、音響環境が悪くなると意味がないのです。
ホームシアターの防音対策を行う時には、高い防音性能を実現するのと同時に、音の響きをコントロールしてあげることが大切です。音の響きは、音楽などに豊かさや暖かみを与えますが、響きすぎると演出の妨げになるなど、非常に難しい面があります。例えば、防音のためとはいえ、極端に響きの少ない環境になると、普段の生活空間と異なり、耳に圧迫感を感じる、耳鳴りがするなど、映像や音楽を楽しめるような快適な環境を得ることはできません。
したがって、ホームシアター用の防音室は、室内に正しい吸音対策を施し、お客様の好みに合わせた音響づくりが重要です。正しい吸音対策が施せれば、以下のようなメリットを得ることができます。
- 不要な反射音を減らし、少し音量を下げても問題なく楽しめる
- 耳へのダメージが大きい音の籠もりが無くなり、明瞭な音響になる
- 適切な反射音による音源位置の明瞭化が出来る空間に仕上がる
- 機器本来の特性を存分に発揮する事の出来る音響環境になる
防音室内の音響づくりは、ただ単に「防音効果を高める」のとは一線を画す難しさがあります。ホームシアター用の防音室について、豊富な経験を持つ防音工事業者に依頼すべきと言われるのは、この音響づくりまで考えた防音工事を行ってくれるからです。
特にホームシアターは、低音域の臨場感を出すためにウーファーなどから大きなパワーの低音が出るようなっていたりします。音響対策がきちんと行われている防音室であれば問題ないのですが、そうでない防音室では、低音の抜けが悪く、ブーミング(不要な低音がブンブン響く事)が耳につく…なんてことになり、濁ってしまった音質になることで、せっかくのホームシアターが台無しになる可能性があるのです。
まとめ
今回は、自宅に設置したいと考える方が年々増加している、ホームシアターについて解説しました。コロナ禍を経験した現在では、「自宅で好きな時間に自分の趣味を楽しめるようにしたい!」という要望を持つ方が増えていて、ホームシアターやカラオケルームを作る方が増えているそうです。実際に、防音工事業界でも、楽器用防音室ではなく、カラオケやホームシアター、ゲーム部屋のための防音室を検討しているという方からのお問い合わせはかなり多くなっています。
ホームシアターやカラオケ用の防音室は、防音性能だけでなく、音響環境作りが非常に重要になりますので、経験豊富な防音工事業者に施工を依頼するのがおすすめです。例えば、防音性能を高めるため、部屋の遮音性能ばかり高めてしまうと、室内で音が反響しすぎてしまい、音漏れはしないものの、とても快適に過ごせない防音室が仕上がってしまう可能性があります。そして、未熟な業者に施工を依頼した時には、こういった失敗事例が意外に多いようですので、注意してください。
阪神防音は、スタジオやライブハウス、商業用カラオケルームなど、プロ仕様の防音室を数多く手がけています。防音性能と音響環境を両立した、高性能な防音室をご提供できますので、自宅にホームシアターを設置したいとお考えであれば、お気軽にご相談ください。