サックスやフルートなど管楽器の防音はユニット型が正解?ユニット型防音室の注意点をご紹介
今回は、自宅でサックスやフルート、トランペットなどの管楽器の演奏を検討している方に向け、低コストで管楽器用の防音室が手に入ると言われるユニット型防音室について解説します。
近年では、マンション暮らしの方が増えている、戸建てでも家と家の距離が近くなっているなどと言った理由で、ちょっとした生活音が原因となる騒音トラブルが増加していると言われています。マンションなどの集合住宅で生活している方であれば、上の階に住む人の足音や椅子を引く音、お隣の方の話し声が気になる…と言った経験をしたことは一度はあるのではないでしょうか?実は、このような音の問題は、各家庭の生活空間が独立している戸建て住宅でも起きていると言われています。
それでは、生活音とは比較にならないほど大きな音量となる楽器の演奏について、自宅で時間帯を気にせずに行いたいと考えた時には、どのような対策が必要なのでしょうか?一般的には、阪神防音のような防音工事の専門業者に相談し、演奏予定の楽器に合わせた防音室を一から作ってもらうという方法が思い浮かぶと思います。ただ、専門業者による防音工事の場合、やはり多額のコストがかかってしまうという点が悩みの種になります。さらに、賃貸物件に住んでいる、規約が厳しいマンションに住んでいるなど、お住いの関係上、専門業者による防音工事が受けられない…なんてケースも少なくありません。そこで注目されているのが、ヤマハやカワイなど、楽器メーカーが販売しているユニット型や定形タイプと呼ばれる防音室です。このタイプは、防音性を保持した小さなプレハブ小屋を購入し、部屋の片隅に設置するという方法で、大掛かりな工事が必要ないため、賃貸住宅などでも設置可能なのです。さらに、小さい物であれば、1畳以下の物もあるなど、立って演奏が可能な管楽器用防音室と考えると、低コストで練習環境が作れるのではないか…と考える方が多いです。
この記事では、サックス、フルートなど、管楽器用防音室として導入される場合が多い、ユニット型防音室の特徴と、導入する前に知っておきたい落とし穴について解説します。
ユニット型防音室ならではの特徴
それではまず、専門業者に防音工事を依頼してつくる防音室ではなく、楽器メーカーなどが販売しているユニット型防音室ならではの特徴をご紹介します。冒頭でご紹介したように、ユニット型防音室は、防音性能を持ったプレハブ小屋のような物で、既製品の防音室を購入し、部屋の中で組み立てることで楽器の演奏などを可能にするという製品です。工場で製造される製品となりますので、どのタイプを購入したとしても、カタログに記載されている防音性能を必ず持っています。業者による防音工事の場合、職人さんの技術力によっては、希望する防音性能を保持した防音室に仕上がらない…など、工事後のトラブルの心配がありますが、ユニット型防音室は統一された企画通りに製造される製品なので、体験ルームなどで確認した通りの性能を必ず持っています。
フルートやサックスなどの管楽器は、立って練習することが可能な楽器なので、譜面台を防音室内に置く場合でも、1畳強のスペースがあれば楽器の演奏自体は可能です。そのため、防音室にかけられる予算が限られている方にとっては、最小限のコストで防音環境を作れるという点がメリットとみなされています。
ここでは、専門業者に依頼して防音室を作るのと比較した場合、ユニット型防音室にどのような特徴、メリットがあるのかを分かりやすくご紹介します。
防音室にかけるコストを抑えられる
ユニット型防音室の最大の魅力が、専門業者に防音工事を依頼してつくる防音室と比較すると、安価に防音環境を作ることができる点です。防音工事による防音室は、既存の部屋を一度解体し、そこから高い防音性能を発揮するように防音室を作り直す工事が行われます。防音室の利用用途によっては、部屋の中に浮き構造でもう一つの部屋を作るといった特殊な工法が採用される場合もあるなど、一般の住宅リフォームと比較すると、工数や使用する材料が多くなり、どうしてもコストがかかってしまうのです。
一方、ユニット型防音室は、広さや防音性能が異なる複数の種類が用意されているものの、工場で製造される既製品という扱いになります。購入する防音室の種類を決めれば、自宅の設置場所でプラモデルを組み立てるように、防音室を作るといった感じになります。工場製品は、製造ラインのオートメーション化が進んでいますし、大量生産によるコスト削減なども行われています。そのため、高い防音性能を持つユニット型防音室でも、もっとも小さな0.8畳タイプなどになると50万円程度から販売されている製品もあります。もちろん、ピアノなどが設置できる広いタイプ、プロの演奏にも耐えられるような高性能なユニット型防音室となると、100万円をゆうに超える価格帯になりますが、中古市場なども出来上がってきた現在では、フルリフォームによる防音室よりは確実にコストを抑えられます。
防音工事ができない部屋に防音環境を構築できる
二つ目の特徴は、賃貸物件や大掛かりなリフォーム工事が禁止されている分譲マンションなどでも、ユニット型防音室なら設置できるという点です。まず、賃貸住宅の場合、住人は家賃を支払って部屋を借りているだけです。部屋の持ち主は大家さんとなるわけですので、楽器の演奏がしたいと考えても住人の考えだけで、部屋に工事を施すことはできません。また、大家さんに防音工事をしたいと相談したとしても、壁や天井、床などを一度解体するような大掛かりな防音工事は認めてもらえない場合がほとんどです。認めてもらえたとしても、退去時には現状回復工事をしなければならないため、防音工事以外の部分に多額のコストがかかります。
さらに、分譲マンションのように、住人が購入した物件でも、管理規約などで大掛かりなリフォーム工事を禁止している物件も多いです。この場合、自分の持ち物件だとしても、防音工事のような建物の構造に影響を与える工事を行うことができません。このように、フルリフォームによる防音室は、あなたがコストを支払うといっても工事ができないケースというのがあるのです。
これが、ユニット型防音室の場合、部屋を傷つけるような工事が必要ありません。管楽器用の小さなユニット型防音室などは、重量もそこまでありませんし、部屋の中で組み立てるだけですので、賃貸などでも問題なく設置の許可がとれる場合がほとんどです。
短期間で防音環境を作れる
上述したように、ユニット型防音室は、既製品の防音室を購入し、それを自宅の中で組み立てることで防音環境が出来上がります。もちろん、楽器の演奏にも耐えられるような、高性能なユニット型防音室の組立ては、専門業者に行ってもらう必要があります。ただ、この組立て工事に関しても、フルリフォームによる防音室と比較すると、非常に短工期で仕上がるという特徴があります。
専門業者に防音工事を依頼し、防音室を作る場合、楽器防音室レベルの性能になると、最低でも2週間程度の日数がかかります。当然、防音室の性能が高くなる、防音工事を施す部屋が広いなどと言った条件の場合、工期はもっと長くなり、一般住宅でも防音工事に1カ月程度かかることは珍しくありません。
これが、ユニット型防音室の場合、ピアノなどが設置できるレベルの大きなものでも、1日あれば組立て工事が完了します。立って演奏が可能な管楽器用のユニット型防音室の場合、半日程度で組立てが完了するはずですので、防音環境が欲しいと考えてから、実際に手に入れることができるまでの期間が非常に短くて済む点はユニット型防音室ならではのメリットでしょう。
注意が必要なのは、最近はメルカリなどのフリマアプリでユニット型防音室なども販売されています。非常に安価に購入することができますが、組立て工事は誰がするのかについては事前に確認しておかなければいけません。小さなものであれば、自分で組み立てることも可能かもしれませんが、工具などが必要になりますので、そういったアイテムを持っていなければ、別途施工業者を探さなければならず、余計な手間やコストがかかります。中古品を購入する場合でも、施工も請け負ってくれる業者から購入するのがおすすめです。
移動できる
最後は、引っ越しが必要になっときでも、防音室を引っ越し先に持っていくことができるという点です。フルリフォームによってつくる防音室は、住宅の一部となりますので、引っ越しが必要になったとしても防音室を移動させることなどできません。引っ越し先でも防音環境が必要な方の場合、一から防音室を作るための防音工事をもう一度行ってもらわなければならないのです。
ユニット型防音室は、プラモデルのように部屋の中で組み立てるだけですので、引っ越しの際には、解体して引っ越し先に持っていき、そこでもう一度組み立てるということが可能なのです。この特徴は、フルリフォームによる防音室では絶対にできない対応ですので、非常に大きなメリットになると言えるでしょう。
なお、ユニット型防音室を移動させる際には、解体と組立てを専門業者(購入した店に依頼するのが一般的)に頼まなければならないため、そこにはある程度の費用がかかります。
ユニット型防音室の落とし穴
ここまでの解説のみで判断すれば、自宅でサックスやフルートなど、管楽器の練習がしたいと考えた時、ユニット型防音室の方が短工期、低コストで防音環境が作れるし、メリットが大きいと感じた方が多いかもしれません。ユニット型防音室の場合、引っ越しが必要になった時でも、移動先に持っていくことができるという点も非常に大きいです。
ただ、プロの楽器演奏者などは、自宅に防音室を用意する場合、ユニット型ではなくフルリフォームによる防音室を選ぶ場合がほとんどなのはなぜなのでしょうか?実は、ユニット型防音室には、決して見落とすことができない落とし穴が存在するのです。現在、自宅に楽器演奏が可能なレベルの防音環境を構築したいと考えている方は、以下の点はしっかりと押さえて慎重に検討するのがおすすめです。
利用者の要望に合わせた性能にならない
ユニット型防音室は、いくつかのグレードの中から、自分が希望する防音室の性能に最も近い製品を選ぶ形となります。種類については、防音室の広さ、防音室の性能などに違いが存在します。
価格帯的には、楽器演奏に耐えられるスタンダードなタイプで、2畳程度の物が95万円~、3畳以上の物になると120万円~と言った感じで、ここにオプション設備や組立て費用が加算されます。上述したように、ユニット型防音室は「リフォームよりは安価」という点がメリットとみなされているのですが、楽器演奏に耐えられるレベルの物となると、決して安い設備ではない点に注意しましょう。
そしてさらに、ユニット型防音室の致命的な落とし穴が、工場で製造される既製品だという点です。先ほどご紹介したように、ユニット型防音室も、ユーザーが自分の希望に近い物を探せるよう、いくつかの種類が用意されています。しかし、あくまでも大まかな防音性能によって分類されているだけで、防音室を利用するユーザーの用途や希望する音響環境などについて、全ての条件をかなえてくれるわけではないのです。当然、防音室内のデザイン性などについても、購入者の細かな要望全てに対応することもありません。例えば、「自分は背が高いから天井高を少し高くしたい」「音響環境を微調整したい」などの要望は、規格が決まっていますので、基本的に何も叶えられないと考えましょう。
管楽器用の防音室などは、立って演奏できれば良いし、安価な省スペースタイプを購入しようと考える方が多いです。しかし、実際に防音室の中に入ってみると、かなりの閉塞感を感じてしまい、防音室内に長時間入って練習することができない…という点に不満を感じる方が多いです。実際に、1畳以下のタイプになると、防音室内に人が入って楽器の演奏をした場合、室温の上昇や酸素濃度の低下など、長時間の練習は人体に悪影響があるとまで言われています。
フルリフォームによる防音室は、お客様の要望を最初に伺ったうえで、防音室の仕様を一から設計します。つまり、出来上がる防音室は、ユーザーが最も使いやすいと感じられる性能を持つ防音室になるわけですので、楽器の練習環境としては最適なはずです。
狭くて音響環境が悪い
ユニット型防音室は、一般住宅の部屋の片隅に設置することを想定して開発されているため、防音室内の空間が非常に狭いという問題が生じます。一般住宅の居室の天井高については、最低でも2.1m以上確保しなければならないと定められています。現在の新築業界では、2.4m程度確保しているのが一般的ですが、一昔前の住宅の場合、2.2m程度が一般的となっていました。つまり、ユニット型防音室は、このような天井高の居室内に設置されることが前提ですので、防音室内はさらに天井が低くなります。防音室を組み立てる際には、天井にピッタリとくっつけるわけにはいきませんし、床もある程度あげられています。そのため、防音室内の天井高に関しては、スタンダードな物で1.95m、天井が高いタイプでも2.1m程度しか確保できません。
2m近くあるなら十分ではないかと感じる方が多いかもしれませんが、実際に防音室内に入ると、かなり閉塞感を感じると思います。楽器の練習となると、長時間狭い部屋の中に滞在することになるので、ユニット型防音室の狭さに苦痛を感じる方は非常に多いです。さらに問題なのが、狭い空間の中で楽器の音を鳴らした時には、反響音で演奏者が苦痛に感じてしまう可能性がある点です。もちろん、狭い空間での演奏ですので、消音器などを利用すれば、反響音に悩む心配はありません。しかし、消音器を使うのであれば、防音室を購入した意味がなくなってしまいますよね。楽器の練習は、自分が生じさせた音を聞きながら行う方が上達が早くなると言われているため、わざわざ高いコストをかけてまで防音室を用意するのです。
このように、管楽器の練習だからと、ギリギリのスペースしか確保できていない防音室を用意すると、とても楽器の練習環境には適していない状況となり、防音室の購入を後悔する可能性があります。なお、ユニット型防音室の中には、後から音響環境の調整ができるタイプもあります。しかし、1畳程度の狭い防音室の場合、オプション設備で音響環境を調整することも難しいです。
まとめ
今回は、自宅に防音環境を作るための方法として、ユニット型防音室ならではの特徴と致命的な落とし穴について解説しました。ユニット型防音室は、専門業者にフルーリフォームで防音室を作ってもらうのと比較すると、かなり安価に防音環境を用意できる点がメリットとされています。ただ、ユニット型防音室が、防音工事よりも安価なのかというと、本当はそこまで低コストではないと考えた方が良いです。
というのも、ユニット型防音室でも、ピアノが設置できるような3畳以上ある広いタイプのものは、本体価格が150万円近い価格帯に設定されています。一方、専門業者による防音工事は、6畳程度の部屋をピアノ室に作り替える防音工事で、180~200万円程度が相場です。さらに、専門業者による防音工事の場合、室内の音響環境やデザイン性などもユーザーの希望通りに仕上げることが可能です。逆に、ユニット型防音室は、既製品を購入す売るという方法ですので、防音室内のデザインや音響環境をユーザーの要望にしたがって調整することなどできないのです。
こう聞くと、どちらが低コストなのか一目瞭然で、防音工事の方が希望通りで広い防音室を作れるわけですので、実は防音室にかかるコストは安くなるのです。ユニット型防音室が、低コストだというイメージが持たれているのは、1畳以下の防音室などが販売されていて、そういたものがフルリフォームの防音室よりもかなり安価だからだと思います。しかし、空間が狭い防音室は、その中で音を鳴らした時の反響音を苦痛に感じる、室温の上昇や酸素濃度の低下など、さまざまな問題が生じますので、使い勝手の悪い防音室になる可能性がある点に注意しましょう。
ユニット型防音室は、引っ越し先に持っていけるなど、移動が可能だという点は非常に大きなメリットですので、賃貸住宅に住んでいる方が防音環境を求めている場合にはオススメです。